時代と一緒に変わり続ける、50年のラン農家 (有)蘭佳舎 たがみオーキッド / 埼玉県加須市
埼玉県加須市、利根川のほとり。たがみオーキッドは、先代が稲作から転身してカトレアを育て始めてから50年以上、ランの切り花をつくり続けてきた農園です。2代目の田上 智章さんは、時代に合わせて育てるランを柔軟に変えながら、それでも「ランの切り花」という軸は変えずに歩んできました。50年続く産地の、変わるものと変わらないものを聞いてきました。
▶︎ ミディファレノが咲き誇るたがみオーキッドの温室
時代の流れに合わせて、育てるランを変えていく
たがみオーキッドの歴史は、田上さんのお父様がカトレア栽培を始めたところからスタートしています。田上さんが事業を引き継いだのは2013年。現在は8つの温室で約2万5千株を栽培し、温室ごとに温度管理を変えることで、一年を通して出荷できる体制を整えています。
たがみオーキッドは、もともとカトレア専門の農園でした。カトレアの主な用途は葬儀の装花。しかしコロナ禍で葬儀の規模が縮小し、業務需要が大きく落ち込みました。
そこで田上さんは、コロナを機にミディのファレノプシス(中輪の胡蝶蘭)の切り花を導入します。現在の栽培の割合は、カトレアが約7割、ミディファレノが約2割、残りの1割がオンシジューム、ブラッシア、オドントグロッサムなどの品目です。
後発での参入だからこそ、品種選びには工夫がありました。人気品種は先行する産地と被ってしまうため、育種農園のオリジナル品種を切り花用として特別に分けてもらうことで、差別化を図ったのです。もともと鉢物として流通していた品種を、切り花として世に出す。「切り花で売らせてくれませんか」と、コロナ前から言い続けてきた交渉が実を結びました。
▶︎ コロナを機に導入したミディファレノ。品種選びで差別化を図る
求められる花に、品種を寄せていく
品種選びの基準は、一貫して「使う人に求められるかどうか」です。カトレアについては、お客様の求める定番のピンクを軸に、ブライダル需要のある白は品種を集めて一年中揃うように整えています。需要が増える夏に向けてピンクを厚くするなど、季節ごとの配分も考え抜かれています。
ミディファレノの品種選びも同じく。「鉢で売れる品種と、切り花で売れる品種は一緒じゃない。求められているところが違うんです」と田上さんは話します。実際に市場に出し、使う人の反応を見ながら、切り花として売れる品種構成へと少しずつ寄せていくとのことです。育種元から毎月4〜5品種ずつ送ってもらい、その中から評判の良いものをリピートして絞り込んでいきました。
そんなラインナップの中に、オンシジューム「ココアカプチーノ」ブラッシアなど、カトレアやファレノ以外にも、思わず手に取りたくなる、ひとクセある花に挑戦し続けるのも、たがみオーキッドらしさです。


▶︎ 個性豊かな模様のミディファレノや、チョコレートの香りがするココアカプチーノ、細長い花びらが広がるブラッシアなど、個性的なランも並ぶ
ランを通年で生産するための創意工夫
意外に思われるかもしれませんが、カトレアは胡蝶蘭のように一年中同じ花を咲かせられる花ではありません。品種ごとに春咲き・夏咲き・秋咲き・冬咲きという特性が分かれていて、電照(電気をつけて日長を長く見せる)やシェード(遮光して日長を短くする)で開花を多少前後させることはできても、完全にはコントロールできないのです。
だからこそ、たがみオーキッドでは約20品種のカトレアを、咲く時期をずらしながら組み合わせて栽培しています。どの温室にどの品種を置き、いつ電照を切るか。訪問中に見せていただいた温室は、一棟ごとに温度も光もまったく違っていました。
一方で、ミディファレノは、あたたかい部屋から涼しい部屋へ株を移すと花芽をつけます。移してから約1ヶ月で花芽が伸び始め、3ヶ月後には花が咲く。つまり、出したい時期から逆算して株を引っ越しさせることで、母の日のような需要のピークに、狙いどおりの花を用意できるのです。夏の間も、高温の部屋で育てた株を涼しい部屋へ移せば、年末の需要期に合わせて咲かせることができます。
もちろん、真夏に涼しさをキープするには設備と電気代がかかります。それでも、温室ごとに温度を変えながら開花をつないでいくことで、たがみオーキッドのランは一年を通して市場に届いています。カトレアのように咲く季節が決まっている花と、温度で咲かせられるファレノ。性質の違う品目を組み合わせていることで、安定供給ができています。
▶︎ 通年出荷できるように複数品種を組み合わせて育てている
ランの切り花に対するこだわり
先代から切り花農家で、切り花にこだわってきたたがみオーキッドの、ランの切り花に対するこだわりを聞きました。
「ランは花の中でも花持ちはいいほう。だからこそ、時期を問わず、いろんなランを楽しんでもらえたらなと思って、飽きない、年中楽しめるランを選んで作っています」と田上さんは話します。
また、扱う上で気をつけたいのは、つぼみの状態です。カトレアのつぼみはシースと呼ばれる鞘(さや)状の苞(ほう)に包まれて育ちますが、つぼみのうちはとても柔らかく、輸送中に折れやすいのが難点です。また、つぼみが開くときには十分な温度と光が必要で、環境が整わないと本来の発色や花の力強さが出ません。だからこそ、たがみオーキッドではしっかり咲かせた状態で出荷するのを基本にしています。
なお、夏場はどうしても花持ちが落ちるため、注文を断ることもあるそうです。無理に出荷して品質を落とさない。その線引きも、50年間ランと向き合ってきた農園の誠実さだと感じました。
▶︎ ブライダル需要のある白系のカトレア。カトレアはしっかり咲かせて出荷する
最後に:ランと共に時代に合わせて変化していく
長い間、ランと向き合ってきた田上さんにとって、ランから教わる部分が多いとのこと。「時代に合わせて自分も変化していかなきゃいけないし、そういう意味でランから教わっている部分も多いのかな。社会の動きに合わせたトレンドを敏感にキャッチしなきゃいけないし、そういうものを作っていきたいって感じですね」
ランは胡蝶蘭のイメージが強く、「昔からある格式のある花」という印象を抱いている方も多いのでは。今では上記で紹介したような珍しい柄や形のランも出回りが増えています。
そんな中でたがみオーキッドは、葬儀需要の変化を受けてミディファレノを導入し、後発だからこそ品種で差別化するなど、ラン農家としての伝統を守りつつも、世の中のニーズに合わせて変わり続けてきたのだと知りました。
変わり続けること。でも、ランの切り花という軸は変えないこと。その両方があるからこそ、たがみオーキッドの花は50年間も選ばれ続けているのだと思います。
▶︎ ランと共にたがみオーキッドも時代に合わせて変化していく
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FARMER'S PROFILE
たがみオーキッド
所在地:埼玉県加須市
主な栽培品目:カトレア、ミディファレノプシスなどランの切り花
🔗 オンラインショップ
https://tagamiorchid.thebase.in/
🔗 Instagram
@tagami_orchid_kaori
WRITER'S PROFILE

フローリスト:MIU
新卒で入社した大手IT企業から花屋へ転身。フローリストとして修行を経て、現在は株式会社Domuzにて花の卸サイト「ハナイチ」の商品企画や仕入れに携わる。好きな花はクレマチス『水面の妖精』。

