日本の花文化を彩ってきた「ランの女王」カトレアと、50年の彩花園 彩花園 / 埼玉県桶川市
「存在感と香りは、ずば抜けてますよね」。そう語るのは、埼玉県桶川市でカトレアの切り花を50年あまり育て続けてきた彩花園(さいかえん)の2代目・野本淳さんです。「ランの女王」とも呼ばれるカトレアは、一輪で空間の主役になれる華やかさと香りを持つ花。オリジナル品種の交配から、文化の広げ方への悩みまで。カトレアひと筋の生産者が語る、この花の魅力をお届けします。
▶︎ 玉県桶川市で50年あまり続く彩花園の温室
「彩る花の園」と書いて、彩花園
彩花園の歴史は、およそ52年前にさかのぼります。先代である野本さんのお父様がシンビジウムの栽培を始めたのがきっかけでした。先代の実家は山梨の桃農家で「彩る果物の園」で彩果園、だったのに対し、花を育てるので「彩る花の園」と書いて、彩花園。名前に、花への想いが込められています。
シンビジウムは寒い環境を好むため、高冷地の産地には条件面でかなわない。そこで15年ほど経った頃、カトレアへと切り替えました。以来、約1,600坪の温室でカトレアを育て続けています。
埼玉県はランの生産が盛んな土地です。県内のランの組合は、かつて50名以上の生産者が集まる大所帯でした。現在は30名ほどになり、世代も先代から2代目へと移り変わっています。埼玉のランの生産者に限らず、花き産業が大きく育った1970年代に親の世代が始めた農園を、子の世代が受け継いで守っています。日本の花産業は変革期にあるのかもしれません。
▶︎ 1,600坪の温室でカトレアを育てる
初開花まで4年。オリジナル品種への取り組み
彩花園の大きな特徴が、自家交配のオリジナル品種を持っていることです。代表品種の「ミツコ」は、おばあ様の名前から付けられました。
ランの品種づくりは、気が遠くなるような時間がかかります。交配して種が実るまでに約10ヶ月。その種を発芽させて苗になるまでに1年以上。そこから育てて、初めて花が咲くまでに早くて4年。さらに生産ラインに乗せられるまでには最短でも6〜7年かかるといいます。しかもランは年に1回しか咲かないため、他の花と違って年に何度も試行錯誤ができません。「人間の人生で、何回挑戦できるか」という世界です。
▶︎ 受賞歴のあるオリジナル品種の「ミツコ」
花に順位をつけない
野本さんの言葉で強く印象に残ったものがあります。かつては、賞を取ることに力を注いだ時期もあった。けれど今は、そこを目指していない。「道端に咲いている花も美しいのだから、私は人間が花に順位をつけるのは好きではない。」長くランと向き合ってきた末に、そう考えるようになったといいます。
品評会で評価される花も、規格に合わない花も、咲いた花はどれも等しく美しい。50年かけて品種を生み出し、今まで賞も受けてきた生産者だからこそ、この言葉には重みがありました。「順位をつけない」という眼差しが、彩花園の花づくりの根っこにあります。
▶︎ 「品評会の花も、規格外の花も、咲いた花はどれも等しく美しい」と野本さんは言います
文化と結びつきの強い花、カトレア
花そのものが冠婚葬祭を中心としたイベントと結びつきの強いものですが、特にカトレアはその傾向が強くあります。
カトレアは日本の花文化の主役だった時代があります。かつて大手百貨店の包装紙に描かれていたのはカトレアでした。レコード大賞の受賞者が胸につけていたコサージュもカトレア。大手香料メーカーがカトレアの香りの商品を作ったこともあります。「ランの女王」と呼ばれる華やかさと香りは、お祝いの場の象徴だったのです。
一方で、現在のカトレアの需要は葬儀用の装花に偏っており、その葬儀の形もコロナ禍をきっかけに変化して、需要自体が減っているという現実があります。加えて、重油代や資材代、人件費が上がり続ける中で、花の価格はなかなか上がらない。これはカトレアに限らず、花産業全体が直面している課題です。
だからこそ、野本さんは「文化」という言葉をキーワードにしています。花を飾る、花を贈る文化が広がらなければ、需要は生まれない。かつてのカトレアがそうだったように、人の目に触れる場所に花があることが、文化を作る入口になるのだと。
そんな中で、野本さんは自分にできる種まきを続けています。規格には合わないけれど美しく咲いた花を、捨てずに近所の方々へ配る。まずはカトレアという花を、知ってもらうことから始めています。
ただ、いち生産者にできることには限界がある、とも話します。例えば、イベントに花を提供する、若い世代の目に触れる場を作るというアイデアはあっても、それを続ける労力もコストも、一つの農園で背負うには大きすぎる。これからのカトレアの文化をどう広げていくか。答えの出ない問いに、野本さんは今も悩みながら向き合っています。
▶︎ 事務所に飾られたカトレア。空間の主役になる存在感と香り
フローリストへ:ぜひ、カトレアを手に取ってみてください
一輪で主役になれる花、カトレアをぜひお手にとってみてください。
白いカトレアはウェディングでの需要があります。また、定番のピンクだけでなく、オレンジや白に赤リップなど、多彩な色のカトレアがあります。サイズも大きいものからミディと言われる小さいサイズまで様々です。
彩花園のカトレアがもっとも美しく咲くのは冬です。12月から3月頃が開花の最盛期。この時期の花は大きく、発色も良く、花の直径が20センチを超える大輪は、最上位の「3L」という規格で出荷されます。
華やかな香りも含めて、一輪で空間の主役になれる花。加えて花もちも良いです。他の花材では出せない華やかさを、ぜひ一度手に取って確かめてほしい花です。
▶︎ 一輪で主役になる存在感。使い方次第で表情が変わる

▶︎ カトレア ピンクはこちらからご購入可能です!
最後に:需要が減っていく中で、私たちにできること
母の日のカーネーションのように、花と結びついた瞬間があれば、カトレアはもう一度広がっていけるはず。需要が減っていく中で、これからどうやって花を届けていくか。野本さんは今も悩みながら、模索を続けています。「まだやってないことがあるんじゃないかな、まだできるんじゃないかなっていう意地はありますね」という言葉が、強く印象に残りました。
この訪問を通して、花を販売する立場として何ができるのかを考えさせられました。ハナイチは花の卸のECサイトです。ネットの力を使って、これまで市場で出会えなかった花とお花に関わる皆さんを繋げることは、ハナイチにできることのひとつのはずです。
50年間カトレアと向き合ってきた彩花園さんの想いを繋げたい。カトレアという花の存在感と香りを、まずは知ってもらうことから始めたいです。
▶︎ 「花の女王 カトレヤ」。彩花園の出荷箱に刻まれた誇り
コラムに出てきた花材、ハナイチでも購入できます 🌼



FARMER'S PROFILE

彩花園(さいかえん)
所在地:埼玉県桶川市
主な栽培品目:カトレア(オリジナル品種「ミツコ」「ミヤビ」ほか)
WRITER'S PROFILE

フローリスト:MIU
新卒で入社した大手IT企業から花屋へ転身。フローリストとして修行を経て、現在は株式会社Domuzにて花の卸サイト「ハナイチ」の商品企画や仕入れに携わる。好きな花はクレマチス『水面の妖精』。
