「みんなに愛されるガーベラ生産者になりたい」一目惚れした品種に勝負を懸ける、湘南のガーベラ農家 湘南マツキガーベラ / 神奈川県平塚市
神奈川県平塚市の湘南マツキガーベラは、約40品種・2万株のガーベラを育てる専門農家です。花づくりの中心に立つのは、就農9年目の松木一将さん。社長であるお父様と二人三脚で、大輪からスパイダー咲き、パスタ咲きまで、個性豊かなガーベラを一年中届けています。品種選びから最後の検品まで、松木さんのこだわりを聞いてきました。
▶︎ 約40品種・2万株のガーベラが咲く、湘南マツキガーベラのハウス
バラからガーベラへ。湘南の都市近郊で続く花づくり
湘南マツキガーベラの歴史は、トマト農家だったおじい様の代にさかのぼります。花が好きだったお父様が転身してバラの栽培を始め、バブル崩壊の頃にガーベラへと切り替えました。以来、ガーベラひと筋で26年。コロナ禍をきっかけに「おうちで花を楽しむ」文化が広がり、1本でも様になるガーベラの人気は今も高まり続けています。
松木さんは大学卒業後、農協アカデミーで1年学んでから就農しました。今では品種選びをすべて担当されています。ご家族とスタッフの方々を合わせて総勢10人ほどで生産されています。スタッフの方は10年以上のベテランが多く、チームワークの良さも湘南マツキガーベラの土台になっています。
▶︎ 品種選びを一手に担う松木一将さん。お父様をはじめとしたご家族や長年働かれているスタッフの方と共に生産されている
驚異のロスゼロ!直売所やロスフラワーの取り組みを活用
湘南マツキガーベラには、もうひとつ大きな特徴があります。「捨てる花が、ほぼない」ことです。
市場に出せない規格外の花は、車で10分ほどのJAの直売所へ。さらにそこにも出せないものは、サステナブルフラワーの取り組みに提供し、キャンドルの花材などとして生まれ変わります。少し形が変わってしまった花も、それを求めるお客様の手にきちんと届く。
生産者にとって花がロスになることはとても辛いこと。このロスゼロの取り組みをできているのは湘南マツキガーベラの大きな特徴です。
これを可能にしているのが、平塚という立地です。都市近郊型の農業だからこそ、市場のほかに直売所などの消費者との接点がすぐ近くにあり、花の状態ごとに最適な売り方を選べます。廃棄が減れば売り上げにもつながり、何より、丹精込めて育てた花を最後の一輪まで届け切ることができる。また、つぼみの状態での出荷といった新しい楽しみ方の提案にも積極的で、花を無駄にしない姿勢が徹底されています。
▶︎ 花の状態を見極めながら、丹精込めて育てた花を最後の一輪まで届け切ることができている
品種選びが生命線。多品目少量で、どんな注文にも応える
約40品種という多品目を少量ずつ育てるスタイルも湘南マツキガーベラの特徴の1つです。人気なのは、大輪の「パスタ カルボナーラ」や「パスタ ロサート」、ウェディング需要の高いライトピンクのスパイダー咲き「スパイダー クリームスピン」、白いスパイダー咲きの「ガーデンゴースト」。ポンポン咲きやパスタ咲きも揃え、市場からの多様な注文に応えられるラインナップを組んでいます。
毎年秋に種苗会社のカタログから品種を選ぶのは一将さん。「その時によって求められる品種も変わってくるので、満足しないで、新しい品種の情報をしっかり収集する。ここが一番大事ですかね」。ガーベラは毎年新しい品種が生まれ、消えていく品種もある世界。だからこそ、品種選びこそがガーベラ農家の生命線なのです。
▶︎ 「パスタ カルボナーラ」平打ちパスタを思わせるユニークな花弁の形とカルボナーラのような色合いが人気の品種
▶︎ 「ガーデンゴースト」大輪のスパイダー咲きも人気
一目惚れの「イギー」に2,000株。直感を信じて勝負する
多品目少量が基本の湘南マツキガーベラですが、「これはいける」と思った品種には、一気に勝負を懸けます。その代表が、スパイダー咲きの「イギー」です。
「イギーは本当に一目惚れというか、これは作りたいなっていう品種だったんです」。最盛期には2,000株を育てており、オンリーワンになろう位の気持ちで勝負したとのことです。その読みは当たり、イギーは今や湘南マツキガーベラの看板品種になりました。
また、ニュアンスカラーの「ミノー」も1,500株を育てるなど、惚れ込んだ品種への思い切りの良さが際立ちます。
今や人気が高いイギーを選び抜いた一将さん。品種選びのコツについては「育ててみたい」「可愛い」といった生産者としての直感を大切にしつつ、市場や仲卸との対話を重ねることで「自分がいいと思うものが、世の中のニーズと重なっていく」感覚が育ってきたそうです。
▶︎ ハウスに並ぶ大量のイギー。生産量は日本トップレベルとのこと
▶︎ 1,500株を育てるミノー。温かみのあるアプリコット色の花びらが特徴的
娘の名前がついた、世界にひとつのガーベラ「ノノカ」
湘南マツキガーベラには、ここでしか育てられていないガーベラがあります。その名も「ノノカ」。松木さんの娘さんの名前です。
ガーベラの品種名は種苗会社が決めるため、生産者が自由に名付けることは基本的にできません。ところがあるとき、種苗会社が品種の名前募集キャンペーンを実施。ピンク色が好きな娘さんの名前で応募したところ、見事に当選し、淡いピンクのガーベラに「ノノカ」という名前がつきました。
花びらの先がふっと白く抜ける、繊細で可愛らしい咲き姿。今「ノノカ」を育てているのは湘南マツキガーベラのみです。
▶︎ 松木さんの娘さんの名前がついた「ノノカ」。花びらの先が白く抜ける繊細な色合い
▶︎ 「ノノカ」を紹介する松木さん
「茎がしっかりしている」と言われる理由
湘南マツキガーベラの花は、市場から「茎が硬い」「花持ちがいい」と評価されているとのことです。その理由を尋ねると、ガーベラに最適な環境を整えていること。多岐に渡る栽培のこだわりを教えてくださいました。
夏場はコストをかけてでも冷房を使ってガーベラに最適な温度をキープ。
植え替えは、需要のピークである母の日を売り切った直後。4月頭に届く苗を、専用の育苗ハウスで1ヶ月先行して育てておくことで、植え替え後の「花のない期間」を最小限に抑え、需要が高まる秋に収穫を間に合わせるようにしています。
収穫は朝5時から。切った花は最短で冷蔵庫に入れ、鮮度を保ちます。
そして最後の検品は、必ず松木さん自身の目で行います。湿度の高い日に出る鉛筆の点のようなシミも、1ミリほどの虫の穴も、ここで確実に弾きます。
こうした積み重ねが評価され、ハウスも含めた生産者による審査が行われる品評会では、農林水産大臣賞を受賞しました。松木さんにとって「一番の目標」だった賞です。
▶︎ 切った花を最短で冷蔵庫へ入れられるように、十分なスペースを確保、機械も複数台導入
フローリストへ:ガーベラを長持ちさせるために
ガーベラは茎が水に浸かりすぎると、そこから菌が入って傷みやすい花です。水は浅めにして、こまめに交換するのが長持ちの基本。首が垂れてしまったときは、新聞紙で花を上向きにくるんで深水につけると、半日ほどで戻ることがあるそうです。
また、品種によって水揚げの良し悪しに差があるのもガーベラの特徴です。産地や品種ごとのクセを知っておくと、仕入れの見極めにも役立ちます。切ってすぐ冷蔵庫に入れる産地の鮮度管理も、日持ちを支える大切な要素です。
▶︎ 水は浅めで、こまめに交換。品種ごとのクセを知ることも長持ちのコツ
最後に:みんなに愛されるガーベラ生産者に
9年もの年月、ガーベラの生産に向き合ってきた松木さんに、ガーベラの花づくりのやりがいについて伺いました。
「ガーベラは咲き方も色も本当に豊富で、自分が選んだ品種を育てて、咲いた花に初めて会うときが一番嬉しい。それがお客さんのもとに届いて、長持ちしたよとか、綺麗だったよとか、ガーベラ好きになったよって言われると、それがモチベーションになって、やりがいにも繋がります」
また、今後やっていきたいことについては、「一人でも多く、ガーベラ好きな方を増やしたい。自分の好みだけじゃなくて、いろいろな方の声も取り入れて、みんなに愛されるガーベラ生産者になりたい」。
ハナイチでも湘南マツキガーベラのガーベラをたくさんの方に届けて、その目標に一緒に近づいていけたらと思います。
▶︎ もっともっと沢山の人に、多岐に渡るガーベラの魅力を伝えていきたい
コラムに出てきた花材、ハナイチでも購入できます 🌼

FARMER'S PROFILE

湘南マツキガーベラ(しょうなんまつきがーべら/松木園芸)
所在地:神奈川県平塚市
主な栽培品目:ガーベラ
🔗 Instagram
@matsuki_gerbera
WRITER'S PROFILE

フローリスト:MIU
新卒で入社した大手IT企業から花屋へ転身。フローリストとして修行を経て、現在は株式会社Domuzにて花の卸サイト「ハナイチ」の商品企画や仕入れに携わる。好きな花はクレマチス『水面の妖精』。
